渋谷のユーロライブで、2014年に亡くなった長嶺高文監督の作品特集の上映会があって、観てきた。
亡くなった年に、偲ぶ会に誘われて、行く行く詐欺をしたことを申し訳なく思っていた私だった。
上演されたのは3作+1
「喜談 南海變化玉」
「歌姫魔界をゆく」
「ヘリウッド」
あと、
40分の生前最後のインタビュー。
カントクは私のつくるお芝居を面白がってくれて、10回ぐらい飲みに行ったりした。
私のために、PVを作ってくれたこともあった。
終演後のゲストをブッキングしていただいたこともあった。
カントクと飲んでいると、自分が見所のある人間のように思えて、楽しかった。
私のお酒は明るいが、無礼なので、何度かは呆れられて、飲みと飲みの間が2年3年空いたこともあった。
告白すると私には、エンターテイメント業界の中にいるカントクとの飲みで、何かもらえないかと期待していた部分があった。
その辺のやらしさは、売れない演劇人の私が持っていても仕方のない部分だが、ものすごく下手くそだったと思う。
欲しいならもっと上手くやるべきだったし、あんなに下手くそならやらない方がよかった。
やらないほうがよかった。
カントクはものすごいダミ声で、私のことを「いけもりー、いけもりー」と呼んだ。
「りー」と伸ばした。
住んでいる場所が、私が大塚で、カントクが池袋。
大塚で飲むことが多かった。
カントクと私が飲んでいる席に、のどかさんを招待したこともあった。
のどかさんというのは、俺の芝居に何回も出てくれた、俺的には日本一の女優さん。あんな人はいない。
この席でカントクがのどかさんに「こいつは、あんたに、憧れているんだよ」と言い放って、俺はナイス、カントクと思ったことを懐かしく思い出す。
カントクものんべえなので、飲むといつも深酒になった。
私が帰りの自転車で電信柱に突っ込んで、血まみれになった経験は今でも私の体に残っている。
私の口の左端が、少しひきつっているのは、電信柱の後遺症だ。
カントクと飲んでいた当時の私は、建設現場で働いていたので、カントクは私を、必要以上に苦労人と考えていた節がある。
カントク自身は大きな料亭のご子息であり、全共闘世代。
肉体労働者に対する、うしろめたさがあったのは想像に難くない。
そんな苦役をしてまで、演劇を!ということだろう。
今回の長嶺監督の生前最後のインタビューを見て、ああ、カントクは、こんなようなことを言っていたなあとしみじみと思った。
特に、料亭の息子として生まれて、男と女がおま〇こすることの、猥雑さと日常性について語っているくだり。
あと、自主製作で映画を作ったときのくだり。私の前でも「ハッタリかまして、無茶やったなー」とおっしゃっていたが、何百万も借金したことは知らなかった。
インタビューでは語られなかった話で、俺は聞いたよという話がある。
ヘリウッドで伝説のカルト監督としての、ポジションを得ているカントク。
新作を作るとしたら、どんなものを?と私が聞くと、新作を作るのは正直怖い、とカントクは答えた。
なるほどねー。そういうものか。
今更よく出来た物を狙ってしくじったら、看板に傷がつくというところはあるのだろう。
***観劇の感想***
「喜談 南海變化玉」・・自主映画。監督第一作。お客さん入らず。
檀ふみみたいな顔の人が出ているなあ、と思っていたら、檀ふみだった。
自主映画に檀ふみ?!
今だと、ウチの劇団に有村架純 が出演するみたいなものなのかな。
生前最後のインタビューで、「ダメ元でオファーしたら、何でか受けてくれた」と語られていた。
お話は気球を飛ばす若者たちの話。檀ふみはその気球チームのスポンサーの社員として登場。しかしほどなく、この会社はスポンサーを降りてしまう。檀ふみともお別れか…というところ、「会社やめちゃった」とあっけらかんとのたまった檀ふみは気球チームの一員になる。ここまでは実にヒロインらしい導線。
ところが、ここからの檀ふみは、チームの作業員として気球製作に専心する。ヒロインなら絡めとられるべき恋のよもやまに関与しない。肩透かし感はある。しかし、逆にそれが清潔だったなあという後味は残った。元来が透明感が売りの女優さん。透明感がすぎる。とても贅沢な檀ふみの使い方だった。無駄遣いという意見もあるだろう。
気球を飛ばすことが、青春の夢で、その若さを描くドラマなのかな、と思った。
見ている最後の最後で、そう思った。
見ている時間の大半は、目の前の場面が何を意味するのか、わからなかった。
物語において通常、エピソードは積み上げられていくべきものとされている。一方でこの映画ではエピソードは横に広げて置かれていった。
気球が完成間近という時、気球チームの理論的中心人物の教授がチェーンソーで惨殺(!)されて、突如チームは存続のピンチになる。
でも俺たちは気球を飛ばすんだ! 一旦はバラバラになったメンバーが、気球の下に集まってくる。
ここで初めて、横に広げられたエピソードが、立体的な構造物として私の目の前に現れた。
そこには、パズルが解けた爽快感があった。
生前最後のインタビューでカントクは、この作品を「合議制で作った映画で、変にもっともらしい映画になっちゃった」と語った。「俺はもっと下らないものを作りたかったんだけど、話し合いになると、正論が勝つんだよ」
私が爽快感を感じたのは、そのもっともらしい部分が組み合わさってのものと思われるので、私も俗である。
気球の下に集まるクライマックスの場面、男1(クレジット筆頭。大竹まこと)はスーパーを襲撃して食料品を調達して、ヒッチハイクをして気球に向かった。全然そんなことをしなくて良かった。普通に電車に乗って行ける状況だった。でもスーパーを襲撃した。そこが面白かった。振り返れば、そんな場面ばっかりの映画だった。そこを面白がるべき映画だった。
***
「歌姫、魔界をいく」・・自主映画。2作目。お客さんが入って、マスコミにも取り上げられる。
駆け出しの二人組アイドルが、地方興行にいくと車がパンクして難儀する。親切な執事の申し出に、立派な洋館で一泊することに。しかし、何とそこは、人食い女主人が住まう、人食い洋館だったのだ!
あと、人食い女主人は、体長10mの有翼の怪獣をペットとして飼っていたのだった!
そして二人組のアイドルも、実はドラキュラだったり、狼男だったりしたのだった!
分かりやすくB級です。
青春の輝きとか、そういうもっともらしいものはいらない。
ちゃんとすることを拒絶した作品と最初から知れた。
生前最後のインタビューでも、「前作は上手くいかなかったから、今度はおまえが好きなように撮れよ」と言われて作った、とのこと。
アイドルのマネージャーは早々に館の仕掛けで、串刺しになって死亡。食べられる。
アイドル二人組の片方、アイドルAも映画中盤で、怪獣に食べられる。
残されたアイドルBも、執事に首を跳ねられて、生首が化粧台の上に乗る。これまでの流れでいうと、食べられて、おしまいとなるところ、今回は「やったわねー」と生首が喋って、ドラキュラパワーで復活。
アイドルBは、対怪獣、対女主人と死闘を繰り広げる。
戦いの途中、魔界に落ちたとクレジットされ、アイドルと怪獣は、荒涼とした砂丘のようなところで戦う。
ということで、表題、歌姫魔界をゆく。
歌姫はアイドル。魔界は砂丘。
えー。
でも、この、お客さんからの、えー、がカントクの御馳走なんだろう。
結果、アイドルBは女主人に敗れて、女体盛りみたくデコレーションされて食卓にのる。
女主人は生身の人間で、特殊能力は設定されていないのに、ドラキュラパワーに勝つところがおもしろい。
アイドルBの女体盛りを前にして、女主人が、ナイフとフォークを手にする。
食べられる!
この瞬間、怪獣の卵が割れる。食卓の脇に怪獣の卵が供せられていたのだった。食材としてかな。ゆで(怪獣の)卵なのかな。
割れた玉子から、怪獣に食べられたはずのアイドルAが、飛び出してくる。
アイドル二人は窮地を脱して、グラミー賞を取る。
お話の中盤、アイドル二人が洋館のベッドの上でおやすみとなったところ、レズろうよーと言って、軽くいちゃいちゃするところが、エッチでよかった。
***
「ヘリウッド」・・・商業映画デビュー。賛否両論。カルト映画監督としての地位を得る。
地球征服の野望を持つ、松玉斎ダンスが、桃から生まれたアップル少年(何で?)をさらった。
この事件の解決に、美少女探偵団が動く。
美少女探偵団は、アップル少年の養父に聞き取りを行う。
養父は神父。神父はゲイであることとアップル少年への性愛を、美少女探偵団に告白する。
松玉斎ダンスが、バンドを率いて歌う。松玉斎ダンスは劇場を根城として日々人類を教化しているのだった。
熱狂のステージの裏で、松玉斎ダンスはアップル少年に、ウンコを食わせる。
松玉斎ダンスは人類植物化計画を考えているのだった。
植物はウンコを食べる。
神父は劇場に乗り込み、アップル少年の奪還を試みる。
神父強い!
鎖鎌を武器に、松玉斎ダンスを追い詰める。
しかし、そこにアップル少年が現れ、松玉斎ダンスへの愛を告白する。
劇場に響き渡る帰れコールの中、神父は、泣いて劇場を後にする。
「俺だよ、ダンス」
アップル少年が変装を解くと、それは松玉斎ダンスの仲間のマッドサイエンティストにして、バンドのギタリストのパンクだった。
パンクは地球に行き倒れていた松玉斎ダンスの命の恩人。
しかし松玉斎ダンスの地球征服に協力させられて、今の思いは愛憎半ば。あの時、おまえを助けるんじゃなかった。
「普通の変態に戻りたい!」とパンクは悲痛に叫ぶ。
大王は、松玉斎ダンスの悪事を憂いていた。
松玉斎ダンスの野望を止めるため、ビワノビッチを地球に派遣する。
「月に兎が踊る時、おまえはダンスを倒すのだ」
美少女探偵団の美少女Aの父は、植物学者。
松玉斎ダンスは、植物学者を拉致して、恐るべき人体取り換え装置に植物学者を放り込む。
反抗的な態度をとったマッドサイエンティスト・パンクと、植物学者の脳を取り換えるというのだ。
果たして実験は成功し、松玉斎ダンスは人類植物化計画に向けて、植物学者の知見を得る。
抜け殻のようになった植物学者の体は、帰宅し、「お父様、大丈夫?」と心配する美少女Aの前で
♪たらったらったらった、うさぎのダンス
と大きな満月の前で、踊る。
月に兎が踊った!
機は熟した!松玉斎ダンスを倒すのだ!
ビワノビッチは、怪音波を発する、琵琶を武器に劇場に乗り込む。
怪音波で、パンク以下の手下を倒す。
松玉斎ダンスとは、レーザー銃の撃ち合い。
松玉斎ダンスは、異次元に逃げる。
美少女探偵団もアップル少年失踪の事件解決に向けて、劇場に乗り込む。
神父もマシンガンを手に、劇場に乗り込む。
次元を跨いだ追跡劇が圧巻。
B級ながらも、ここまでを見て、そのB級に教化された頭には、壮大なシンフォニーの終章のように感じられれる。
名作と名高い「マルコビッチの穴」と似ている。
これは、一転して、芸術だなあ…。
物語はあんまり解決しない。
松玉斎ダンスは異次元に消えたまま、ビワノビッチもそれを追ったまま、結論は示されない。
けど、それは、まあ、どうでもいいでしょう。
みんなで歓喜の歌を歌っておしまい。
主演の松玉斎ダンスは、純音楽家の遠藤憲司。映画音楽も担当する。映画は遠藤憲司のPVだ、との評も公開時にはあったそうな。
神父役の佐藤B作が、無駄に演技が上手くて、おかしみ。
美少女探偵団が、ヘタウマで、ちょっとブサも入って、カワイイ。
生前最後のインタビューで、松玉斎ダンスを松田優作が演じるプランもあったそうで、それも見てみたかった。
この映画を製作するにあたり、前2作を共にした自主映画のスタッフで作ることを条件にしたカントクに男気。
今度、お墓参り行きます。
合掌。