スーパーのバイトの同僚には、ウン万枚のセールスを記録した楽曲を作った作曲家と、音楽学校に通っているギタリストのタマゴがいる。
昨日は作曲家さんの方に、相談した。
「コードが押さえられないんです」
「Cでも難しいもんねー」と作曲家。この「Cでも」の向こう側には最難関のFを見ていると思われる。Cは三本指。しかし俺がビヨンビヨンいわせてどーにもならんのは、二本指で押さえるAマイナー7。すんません。
普段は寡黙な作曲家さんだが、ギターの話は楽しく語ってくれた。
Fが押さえられるようになったら、ネックの上のどこへでもいけるよ。コードに関してギターは楽なんだ。スライドさせればいいから。鍵盤は難しい。ドミソもミソドも和音としては同じだから、コードは自分でいくらでも作れるんだよ。エレキは押さえが甘くても電気の力でそれらしくきこえる。アコギの方がむずかしいよね。でも弾いてれば、指が形を覚えてくれるよ。
「Aマイナー7を押さえる時、ちょっと指を寝かせるんですかね」
「そうそう、ちょっと寝かせるんだよ」
***
ギターの練習と並行して、スタンダップコメディを意識した「ボス村松のバカンス」の台詞覚えも進行中。
毎度ながら覚えられない。
でもコードを押さえられないよりも、覚えられてるかな。
昔は全くできなかった、台詞を思い出しながら、それらしく喋るというのが、ほんの少しだけ、できるようになっている。
しかし基本的な記憶力は落ちていると思われる。
劣化するハード、更新されるアプリ。勝つのはどっちだ。
話の導入部だけれども、俺が最高の演技をして、そこに優しいお客さんの優しい視線が合わされば、この「腹立つわー」のところで、クスリとひと笑い取れるのではないかと考えている。
甘いかな。
動画を撮ってみたらこの時点で48秒喋っている。芝居だったら、そこそこの一人台詞の分量だよ。
伊能忠敬は50歳を超えて、日本地図を書いた。
俺、今、47才。
まだ遅くないで。