世界で二番目にカッコワルイ髪形はハゲ。
一番目がバーコード。
お嫁さんが大ファンの世界一カッコいいバーコードの木村九段が、宿願の初タイトル「王位」を獲得して、木村王位となった。
えらいこっちゃ。
木村九段は局後のインタビューで、ファンの声援が力になったと言った。
前夜祭で声をかけてもらったり、ファンレターも貰ったりしたと言った。
実は、そのファンレターの中に、俺のお嫁さんの一通も入っているのだった。
力になったらしい。よかったな。お嫁さん。
もう一つある。
まだ王位戦が始まる前のこと、お嫁さんが木村九段の扇子が欲しいということで、二人で将棋会館に行った。
そして、将棋会館の隣には、神社がある。烏森神社だ。
お嫁さんはこの神社で絵馬を買って、木村九段の躍進を祈ったのだった。
豊島王位が今シリーズでところどころ、らしくないミスをしたのはこの祈りが効いていた可能性がある。
将棋会館に木村九段の扇子はなく、将棋飯であるところのルキャレのビーフストロガノフを食って家に帰った。
***
木村さんは最初、俺の前に、羽生さんの行く手を邪魔する勢いのある強い棋士として現れた。
棋聖戦で羽生さんからあと1勝でタイトル奪取と迫った頃、もう15年ぐらい前の話です。
それが、だんだん羽生さんの邪魔をしなくなってきて、木村さんは俺にとって、解説上手の「解説者欄に名前を見つけると当たりの人」の認識に代わっていった。
そうなってくると、「相手の王様を攻撃せず、相手の攻め駒を攻撃する」木村さん独特の受け将棋は、好ましい個性に映り、ここぞの一番で絶対負ける木村さんの戦績も、愛すべき隣人の弱さに思えてきた。
木村さんはとにかく勝負弱い。
遅いプロデビューから、しかし、勝利をつみかさねてのタイトル初挑戦は、7番勝負で1勝もできず、4連敗。次の挑戦も5番勝負で1勝もできずに3連敗。
この頃、「木村は和服を着ると勝てない」と言われたそうな。将棋の棋士はタイトル戦の時に和服を着るからだ。誰が上手いことを言えと言った。
しかし地力はあるので、トーナメントを勝ち上がって挑戦者に名乗りをあげることはできる。
そんな3回目のタイトル挑戦(これが前述の対羽生さんの棋聖戦5番勝負)。
1コ負けた後、ようやく1勝をあげる。
おめでとう!木村さん!(当時の俺としては、くそう木村め!)
そこから今度は連勝して2勝1敗で羽生さんをカド番に追い込むも、2連敗して奪取ならず。
そこで、また別の呪いが始まる。
4回目の挑戦の7番勝負。緒戦から3連勝! 強いぞ!今度こそ貰った! 木村さんにはもう「和服を着たら勝てない」のジンクスはない。
しかし、この7番勝負、3連勝でリーチをかけてからの4連敗で敗退。タイトル奪取ならず。
ちなみに3連勝からの4連敗は史上二度目のレアケース。
周囲はまたぞろ言い出す。木村さんは、リーチはかかるが、上がれない。
1コ飛んでの6回目の挑戦のときも(挑戦者にはなれる)、先にタイトル獲得に王手をかけるが、やっぱり2連敗して敗退。
どうなってるんだ?
人はこんな絶望から立ち上がることはできないように思える。
神様は人に乗り越えられない試練を、別に、普通に与えるんだねー。そう思ったものだった。
ここまでの木村さんの勝負弱さをおさらいすると、つまり、タイトル戦において、1コ勝つまで8連敗。
それを克服して前に進むと、今度はタイトル獲得リーチで8連敗。
そんな木村さんが、勝負師としての晩年を迎えた46才になって、またも懲りずにトーナメントを勝ち上がり挑戦者になったのだった。
8度目の挑戦。
それが今夏の王位戦7番勝負、相手は今一番強い、充実期の豊島王位。名人位も併せて持っている。
これに勝つなんて無理ゲーです。
木村さん本人も「ストレートで負けないように」とコメントするぐらい、大勢と同じく豊島ノリ。
緒戦は、木村さんの連敗スタートで、やっぱりな、という展開。
この時点で、もう終わったと誰もが思ったはず。
内容が悪い。
1局目は、作戦巧者の豊島さんになすすべなく作戦負け。
2局目は、木村さん大優勢からの逆転負け。
俺にも、そして多分、あなたにも、ストレート負けのシナリオがハッキリと見えました。
どうやったら木村さん勝てるねん、と。
勝ち方が見えてこない。
ここから、3勝3敗のタイとなったのには、何か人智を越えた何かが働いたとしか思えない。
昨日の決着局の戦いは、木村さんの実力が豊島さんのそれを凌駕したのだろう。
木村さんの強い将棋だった!
でも、あの2連敗から、3勝3敗になったのは、おかしい。
再掲しておきます。
人智を越えた何かが働いたとしか思えない。
・・・ただ、今回、敵役のように俺が書いた豊島名人なんだけど、彼もまた一年ぐらい前は、勝負弱い勝ちきれない実力者と目されていた。(4度挑戦失敗5度目の挑戦で成功)
一つタイトルを獲ってから、トントントンと、3つ獲って三冠王になったから今は時代の覇者みたいに言われているけれども、それはまだ実際のところ最大瞬間風速かもしれない。事実、三冠王になってから、連続失冠して、今はもう名人位のタイトルしか持ってない。彼もまた、タイトル防衛という新しい壁と戦う、勝負にもがく人なのだった。
まー、みんな大変なのだった。
俺だって、大変でないことは、ないんだよ。
とするならだ、みんな大変なんだとしたら、みんな一様に大変ではない。大変ではないのだ。
今日は熱を入れて、ブログを書いちゃったな。
おやすみなさい。